2011年3月9日水曜日

日本に学んだ安全・品質管理 カンボジアの優秀建設会社

プノンペン郊外のニロート上水処理場建設現場。入り口に近づくと、真っ先に目に入るのが、「サワッティピァップ(安全)」と大きく書かれた看板だ。日本の建設現場には必ずあるが、カンボジアの他の現場ではほとんど見かけない。

 工事を担当する地元建設会社のピスノカー・インターナショナルは、1993年以来、30件以上の建設プロジェクトを日本企業の下請けとして担ってきた。89年にソク・ソティラ社長(47)の義父が1人で立ち上げた同社は、いまや、日本や米国の大使館建設まで請け負う従業員175人の企業に成長した。ソティラ氏は「日本の建設会社から学んだ安全管理と品質管理の技術が成長の糧となった」と話す。

 ◆大林組にあこがれ

 内戦終結から間もないカンボジアで93年、同社が日本の大手建設会社の大林組から最初に請け負った仕事は、プノンペン市内の道路舗装工事だった。同社が呼び集めた労働者はヘルメットと靴を除いて、普段着のままだ。大林組のスタッフは、ユニホームをいつも着用し、きびきびと現場を仕切っていた。

 「その姿にあこがれた。『プロの仕事』という信頼感があった」とソティラ氏は述懐する。1カ月足らずの現場だったが、ソティラ氏は「現場を整理整頓すること、そこで働く人たちを家族のように守ることが、労働意欲や効率を高める近道だ」と学びとった。大林組の人にそう話したら、「あなたの会社は大きくなる」と言われたことがいまも忘れられないという。

 安全管理や労働環境の整備はコストがかかる。途上国でそれを最優先する企業は多くない。だが、ソティラ氏は従業員が4人だったころから、安全管理コストを経費に折り込んで積算している。建設現場では、毎日、作業前に安全指導のミーティングを行う。作業員の休憩所には掲示板を設置して危険な作業例を写真で説明し、さらに安全管理専門の社員が現場に配置され、無線機を持って現場の各所を一日中点検している。

 ◆家族を守るため

 ソティラ氏によると、カンボジアの建設現場では事故が起きても、犠牲者や家族にわずかな補償金が渡されるだけで、公表も報告もされずに終わってしまう。労働災害補償の仕組みもない。作業員に安全意識を浸透させるのは容易でないが、「事故で働けなくなっても、だれもあなたや家族を守ってくれない。家族の幸せを考えてくれ」と言うと分かってもらえる。

 ソティラ氏は「新しく来た作業員にヘルメットやユニホームを渡すと、うれしそうに受け取る。『ここで働きたい、ここなら安心して働ける』と思える現場にするのが私の仕事。死亡事故を1件も起こしていないのが私の誇りだ」と胸を張る。

 現場優先を貫き、同社の社屋はいまだに創業時と同じ場所で、社長の自宅を兼ねる一軒家だ。「建設会社にとって大事なのは、まず人材と機材。社屋は一番後でいい」(ソティラ氏)

 ◆国内外で高評価

 労働効率の高い同社の工事は質とスピードで高い評価を得るようになり、2000年から02年には、鴻池組の下請けで在カンボジア日本大使館の事務所棟と大使公邸の新築を手がけた。内装から庭園土木工事まで、同社は専門家の指導のもとに幅広い作業をこなし、その仕事ぶりが03年の在カンボジア米国大使館の建設事業受注へとつながった。

 2月半ば、ソティラ氏は日本の国際協力機構(JICA)が主催した「公共事業安全・品質管理セミナー」で、初めて安全管理について講演した。

 会場では質問が相次ぎ、これまで関心を呼ぶことすらなかった20年にわたる取り組みが脚光を浴びた。講演後には、カンボジア政府からも「セミナーを開きたいので講演してほしい」と言われたという。

 ソティラ氏をセミナーに招いたJICAカンボジア事務所の平田仁(ひとし)次長はこう強調する。「ピスノカーのように誠実な地元企業や人材をきちんと育てるのが日本企業の強みであり、他国の企業にまねができないところ。日本の建設会社の技術力や人材育成力が適切に評価される公共入札の基準をカンボジアに導入して、第2、第3のピスノカーを育て、質の高いインフラを整備できるような協力を目指したい」(カンボジア生活情報誌「ニョニュム」編集長 木村文)


フジサンケイ ビジネスアイ